自然環境


1.島の生い立ちと気候

慶良間列島は、沖縄本島から20~40㎞西方の海上に浮かぶ大小30あまりの島々からなり、阿嘉島は慶良間列島のほぼ中央に位置している(図1)。地層に含まれるスギやヒノキの化石の分布から、150万年以上前の鮮新世の時代には、慶良間列島は沖縄本島北部まで連なる標高1500mを越える山脈の一部であったと考えられている。60-20万年前の沖縄周辺海域には、大きな規模のサンゴ礁が広がっており、現在それは琉球石灰岩として地層の中に残っている。この琉球石灰岩層は、慶良間列島では海底80m前後のところにある。地殻変動によって、慶良間列島は沈降していったのである。その結果、沖縄本島と慶良間列島の間には海が広がり、山脈の頂であった慶良間列島は、現在のような小さな島の集まりになった。そのため、列島の内海は、沈降海岸地形を示し、美しい景観を見せている。

図1.慶良間列島 海水温は2月から3月にかけて最も低いが、月平均値が20℃を下回ることはなく、逆に7月から8月にかけては最も高く、ふつう27.1-29.6℃である。しかし、1998年は例外的に高水温になり、月平均水温は30.4℃を記録し、周囲のサンゴ礁で白化による被害が発生した、この時の白化現象によって沖縄本島周辺では壊滅的な被害が生じたが、阿嘉島周辺での白化が原因の死亡群体数の割合は6.7-23.4%にとどまった。
毎年、夏の始め頃から台風が襲来し始める。年5個程度の台風が接近し、強烈な波浪と風雨をもたらすが、台風が来ない限り、夏季の海況は比較的おだやかである。しかし、10月から4月にかけては、北からの季節風が強く、北側に面した海岸は大荒れとなる日も少なくない。

2.造礁サンゴ

図2.阿嘉島周辺地図内県指定重要保護地域及びベルト調査地点 これまでに阿嘉島を中心とした慶良間海域で確認された造礁サンゴの種は、14科59属248種である。ヴェロン博士によって日本国内でおよそ400種の造礁サンゴが確認されているから、慶良間には、そのおよそ62%が生息していることになり、面積的な広がりから考えると、慶良間の造礁サンゴ相はきわめて豊富であると言える。(図2)では、阿嘉島周辺の保全区域とベルト調査地点をあらわしている。
座間味島の北岸は、縁脚-縁溝構造の発達した礁斜面が広がり、以前はテーブル状ミドリイシ群落が発達していたが、1998年の白化現象と近年のオニヒトデの大発生により大きなダメージを受け、現在も以前の様相を残す東部を除いては壊滅状態にある。島南東部には、コリンボース状ミドリイシをはじめとした多くのサンゴが生息している。

図3.阿嘉島のサンゴ礁 阿嘉島北西岸のクシバルには、縁脚-縁溝構造の発達した礁斜面があり、この礁縁部から礁斜面にかけてテーブル状みどりいしの大群落があったが、近年のオニヒトデの食害により、その多くが死滅してしまった。東岸のニシハマには、枝状ミドリイシをはじめ多種多様なサンゴが生息し、魚類も多い。南岸のマエノハマには、岸から100m程沖に砕破堤があり、その手前にはリュウキュウスガモなどの海草の生えた砂底が広がっており、その間に点在する岩の上には塊状のキクメイシ類や枝状のコモンサンゴ類が生息している。砕破堤の沖には、岸-沖方向に細長い岩盤の根が並んでおり、サンゴの被覆度はあまり高くないが、意外に生物量は多い(図3)。
阿嘉島周辺では、夏季5-9月にサンゴの産卵が観察される。多くのミドリイシ属とコモンサンゴ属は5-6月に、サザナミサンゴ属は7月に、いくつかのキクメイシ科は8-9月に産卵する。一斉産卵の翌朝の海面には、スリックが見られる。その一部は海岸に打ち寄せられるが、沖合に流れ出て生き残った幼生は、沖縄本島の西海岸に流れ着いて海底に着生する。近年、多くの研究報告によって、慶良間列島周辺は、沖縄本島へのサンゴ幼生の供給源の一つであることが明らかになってきた。したがって、慶良間海域の環境保全は、沖縄本島をはじめとする周辺のサンゴ礁にとっても、重要な問題である。

3.その他の生物相

図4.ケラマジカ 慶良間の海からは、これまでのところ魚類約360種、造礁サンゴを含む無脊椎動物約1640種、海藻類約220種が確認されているが、未調査の生物群も多く、さらに多くの種が生息していることは間違いない。
夏にはウミガメが産卵のために上陸してくる。主にアオウミガメであるが、アカウミガメやタイマイも産卵しており、時折、海の中でこれらのウミガメに出会うこともある。クジラの海としてもまた注目されている。主に1月から4月にかけて、慶良間海域にはザトウクジラが訪れ、交尾、子育てなどの繁殖活動を行っている。
陸上では、およそ620種以上の自生植物(帰化植物を含む)、ケラマジカなど、様々な生物を目にすることができる。ケラマジカは、ニホンジカの亜種の一つで、慶良間列島だけに生息しており、ニホンジカに比べ小型で、黒っぽい。およそ360年前に九州から人の手で移されたものが定着したものらしく、屋嘉比島と慶留間島では、国の天然記念物として保護されている。阿嘉島での生息数は、1997年には148頭までに増加したが、その後は減少して現在は70頭前後である。(図4)

4.人びとの暮らし

1400年代半ばから1800年代後半の琉球王国の時代には、慶良間は中国との貿易船の係留地であり、島の人々はその船の優秀な船員として琉球王朝に重用されていた。
沖縄が日本の返還された後、第二次世界大戦までは、島はカツオ漁業や加工業(鰹節)により栄えていた。慶良間の人々は、海と主に暮らしてきたのである。漁獲される魚類は、カジキ、マグロ、カツオなどで、夏の一時期にはスクと呼ばれるアイゴの仔魚の大群を刺し網で捕らえる漁が行われている。また、大潮の干潮時には、礁原を歩いて貝類やタコなどが獲られるが、島民の食卓にのぼる程度である。
そして、近年の発展の原動力も、やはり豊かな自然であった。世界有数の美しいサンゴ礁と認められた慶良間は、折からのダイビングブームにのって、ダイビング業をはじめとする観光業が発展し、現在もそれは続いている。43の軒のダイビング業者がおり、それ以上の宿泊施設が阿嘉島を含め3つの島からなる座間味村にはある。そのおかげで、沖縄の多くの離島は過疎化で悩んでいるが、阿嘉島では、1985年から2000年の15年間で214人から348人に増え、住民の平均年齢も著しく若返って学童数が増加した。


参考文献:
  • 林原 毅(1995)慶良間列島阿嘉島周辺の造礁サンゴ類とその有性生殖に関する生態学的研究.博士論文,東京水産大学,123pp.
  • 岩尾研二(2000)サンゴ白化原因の地形効果研究.科学技術庁研究開発局編,サンゴ白化現象の機構解明に関する緊急研究成果報告書,pp.15-39
  • 岩尾研二(2003)阿嘉島臨海研究所で行われた慶良間列島の海産動物相調査.みどりいし,14:38-41
  • 岩尾研二(2004)慶良間諸島.環境省・日本サンゴ礁学会編,日本のサンゴ礁,pp.185-189
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  • 大葉英雄 (1995) 沖縄県慶良間諸島阿嘉島周辺の海藻目録.みどりいし,6:23-28
  • Veron JEN (1992) Conservation of biodiversity: a critical time for the hermatypic corals of Japan. Coral Reefs, 11:13-21
  • 座間味村史編集委員会・編(1989)座間味村史(上巻),座間味村役場,沖縄,710pp.
  • 遠藤 晃(2008)亜熱帯に棲む鹿、ケラマジカ。ミドリイシ、19:25-29

2008.08.05一部改定